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東京高等裁判所 昭和57年(う)313号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中一〇〇日を原判決の刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人富坂博の提出した控訴趣意書に記載されているとおりであるから、これを引用する。

控訴趣意中理由不備の主張について

所論は、被告人の本件所為は、覚せい剤所持の幇助、同譲り受け、同使用の三罪に該当するが、覚せい剤所持の幇助の罪が他の二罪より軽い罪であることは明らかであるけれども、他の二罪については刑種、刑の長期・短期が全く同じであるから、併合罪の加重をするに当たっては、右二罪のうち犯情の重い罪を最も重い罪として示し、その罪の刑に法定の加重をしたことを明示しなければならないのに、原判決は、法令の適用において、併合罪の加重をするに当たり、「刑法四五条前段、四七条本文、一〇条」とのみ判示し、どの罪の刑に法定の加重をしたかという理由を示していないのであって、原判決は判決の理由の一部を欠くものといわなければならず、破棄を免れないというのである。

然しながら、原判決が法令の適用に当たって併合罪の加重につき刑法四七条本文、一〇条を摘示しているのは、被告人の犯した覚せい剤の譲り受け、同使用の罪の各刑と覚せい剤所持の幇助の罪の刑とは前者の重いことが明らかであり、右覚せい剤の譲り受けと同使用の罪の法定刑は同一であるところから、右二罪のうち犯情の重い罪を最も重い罪とし、その罪の刑に法定の加重をしたことを示した趣旨と認められるばかりでなく、原判決の罪となるべき事実の摘示自体によっても、本件覚せい剤の譲り受けと同使用の罪のうち前者の罪の犯情が重いと認められるから、原判決は被告人の犯した本件各罪のうち覚せい剤の譲り受けの罪を最も重いとしてその罪の刑に法定の加重をしたものということができる。従って、原判決には所論のいうような理由の不備は存在せず、論旨は理由がない。

控訴趣意中量刑不当の主張について

所論に徴し、原審及び当審で取り調べた証拠に基づいて検討するのに、被告人は、昭和五五年九月に窃盗、恐喝未遂の罪により懲役二年、四年間執行猶予の判決を宣告されたのに、右判決が確定して漸く一年を経たばかりで、原審相被告人の加藤孝一と、同人が覚せい剤を入手してこれを他に転売するのを被告人において手伝うという相談をし、その目的で加藤と行動を共にしている間に本件各犯行に及んだもので、その経緯に徴すると、本件犯行を所論のように簡単に偶発的な犯行とは言い切れないうえ、被告人が前記前科のほか昭和四一年以降前後五回にわたって暴行、傷害、暴力行為等処罰に関する法律違反、覚せい剤取締法違反などの罪で処罰された犯歴を有し、平素の行状にも問題のあることなどを併せて考えると、被告人が反省していることやその家庭の事情など所論の指摘する被告人に有利な事情を斟酌してみても、原判決の被告人に対する科刑が重過ぎて不当であるとは認められない。論旨は理由がない。

よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却し、刑法二一条により当審における未決勾留日数中一〇〇日を原判決に算入し、当審における訴訟費用については、刑訴法一八一条一項但書を適用してこれを被告人に負担させないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 四ツ谷巖 裁判官 阿蘇成人 高橋省吾)

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